想像のホタルと過ごす|志賀高原夏期保育のこと
志賀高原に行ってきました。関わっている幼稚園のいわゆるお泊まり保育的行事で、5歳児たちとの三泊四日の旅です。子どもたちの中には生まれてから1泊もおうちの方と離れたことがない子もいるそうで、おうちの方にとっても三泊四日は大きな出来事のよう。(卒園の小学生にも人気の場所で、夏休みに小学生向けのツアーがある。)
志賀高原では、前橋ではなかなか楽しめない高原ならではの自然の中で登山などを満喫し、おうちとは違うホテルのお部屋でお友達と先生たちとの共同生活を楽しんだり苦しんだりして過ごす。歩く場所は年によって違うけど、晴天に恵まれれば思い切り山歩きを楽しむ。幼稚園児とは言え、(運動不足の)大人でも疲れるコースをたくましく歩くので毎年感心する。
いくつも書きたいエピソードがあるけれども、今回はホタルとの関わりのことを書きたい!と思っている。今回宿泊した石の湯ホテルのすぐ近く(子どもの足で徒歩5分くらいのところ)にホタルが見られるスポットがあり、初日に見に行く予定になっていた。夕食を食べ終わってから就寝までの時間は、夜のお楽しみの時間になっていて、けれどもあいにくの雨が続き、初日、二日目とホタルを見に行くことができなかった。急きょワークショップをすることになり、初日は見に行けなかったホタルをテーマに子どもたちが思い思いに工作やお絵かきを楽しみました。あまりにも急だったので何も準備がなく、すぐに出るところにあった折り紙でホタルをつくる子もいれば、急いで用意した黒い画用紙に包まれ、夜の川を泳ぐホタルの赤ちゃん(通称バブちゃん)になりきるところから始まり、川から出てきたホタルがどんな姿かを描いたり、黒い画用紙をドレスがわりにしてホタルの衣装をつくったり、色画用紙でホタルの人形をつくったりと、寝ることを忘れるくらいにワークショップを楽んだ。
二日目の夕方は雨が上がっていて、これなら行けるぞ!と防寒着を着て玄関に集合!した途端に雨…。またも断念することになり、急きょワークショップ。ホタルを見て観察した後に、ホタルになりたい、ホタル祭りをしたいという子どものアイデアがあったけれど、結局この日も見ることができないままになってしまった。
初日は個々人が思い思いに過ごしたので、二日目は全体で活動に取り組むことにした。(この幼稚園での生活は、子どもの声や気持ちを尊重するけれど、大人にも主体性があり気持ちや権利がある。学習意図の高い活動などは、大人の主体性を重視した計画性の高い活動に落とし込む。)とは言え、この日の活動は準備時間が10分ほどしかなく、計画性というよりも前回も書いた即興的な計画によって準備をし、こちらのリードによって進んでいく。子どものやりたいことを聞くばかりではなく、大人のやりたいことを推し進めるだけではなく、お互いの気持ちを尊重しあい、お互いが乗せ上手・乗せられ上手でいられるとワークショップはおもしろくなる。ノリだけではなく、即興的な活動と、計画的な活動の両方を大事にすることで、想像力は拡張されてされていく。
二日目はホテルの食堂のテーブルに黒いロールの画用紙を敷き、志賀高原の夜をテーマにしたワークショップを行うことにした。みんなを集めてワークショップへの導入をしていると、前のめりに出てくる子達の体で、後ろの列になった子達が見えなかった。後ろの子への配慮を促すこともできたかもしれないけれど、その関係性を引用して、前の誰かの向こうに見えない誰かがいるように、雨が振り、葉っぱの向こうに隠れてしまって出会えなかったホタルがいたり、志賀高原の森の向こうに出会えなかった動物や虫、植物などがたくさんあったり、別の木があり、森があり、池があり、違う町があるだろう。さらに夜になると窓の向こうの木も、夜の向こうに隠れて見えない志賀高原が広がっている。そんな夜の暗闇に潜む向こう側を想像するために、2人1組になって二人羽織のように重なり、前の人が出したお題を後ろの人が紙が見えない状態で描いていくワークショップを行うことになった。
その後、黒い紙に黒い鉛筆で描いた線をクレヨンで塗っていき、電気を決して懐中電灯で照らしながら夜の志賀高原を探検した。
三日目の夜は、夕方に雨がパラつき、またしてもダメか…と心配されたが、いよいよホタルに見に行けることに!
防寒着を着て、暗い森を進んでいく。川に着くまでの道も足元が見えないほどに真っ暗で、子どもたちも怖くなり繋いだ手にギュッと力がこもるその頃に、数匹のホタルに出会うことができた。川にかかる橋に着き、暗闇に目が慣れてくると数十匹のホタルを見ることができた。ホタルに会うことを心待ちにしていた子どもたちから歓声が上がり、しばらく寒さも暗さも忘れて鑑賞することができた。
ホタルを一緒に見ていた子どもたちが、「思っていたホタルと違う!」と言う。「思っていたよりも動きが遅い!」「思っていたよりも色が薄い。」「光の色は黄色だと思っていたけど、クリーム色に見える!」と教えてくれた。志賀高原に来るまでの間、ホタルを見るのを楽しみにしていて、志賀高原に来てからの3日間も楽しみにしながら膨らませたホタルのイメージと、実際に目にするホタル。インターネットでなんでも見られる時代に、まだ見たことのないものが一体どんな姿なんだろうと想像を膨らませる時間は少ないだろう。その想像を膨らませる時間が雨のおかげで伸び、伸びれば伸びるほどその想像のホタルとの対話が深まっていく時間を過ごすことができた。
雑誌やテレビで見たことのあるものを実際に目の当たりにし、イメージと違った時ってがっかりしてしまうことが多い気がする。しかし、子どもたちは自分の膨らませたイメージと実際の体験のズレを感動に変えた。そのズレは学問で言えば正解・不正解という線引きで見てしまいそうだが、子どもたちはホタルに関する正しい知識を暗記している訳ではない。暗闇でぼんやりと光るホタルの光のような曖昧さの中で、自分なりの"ホタルのイメージ”と向き合い、想像力を拡張したのだと思う。
正しいと言われる知識や技術は、インターネットでも調べられる時代である。しかし、自分の想像力の向こう側にしかないものは検索することができない。子どもたちを取り巻く社会の環境が厳しくなってきたご時世に、このような体験ができる機会は大事にして欲しいと切に願う。
そして4日目に、ある子どもが自作の歌を歌っていた。
宿泊していた石の湯ホテルをもじり、「石の湯ホタル」という歌だ。いつかまたこの歌を聞きに、みんなで志賀高原に行ける日が来るといいなあ。
Back to Top