北九州市立美術館WSレポ(4)
あまりウェブサイト上で参加者の名前については書くべきじゃないかもしれませんが、なかしまゆうたくんが参加してくれました!西日本では濁音がなくなる人が多いようで、ナカジマではなくナカシマ。こういう出会いはなんか嬉しくなりますね。 そんなユウタくんが考えてくれた植物の物語が、たまたま学芸員さん(画伯)が忘れないようにとメモってくれました。『不老不死の実』をつける木です。不老不死になれる実を食べた後、生きることに飽きたら木の皮を食べると死ねる、というのが独特で笑えます。ここには書かれていない部分に、舞って落ちている葉っぱは手裏剣のように切れるという話もしていました。聞く人、記録する人によってこぼれ落ちてしまう情報がありますが、今後このように植物のイメージや物語、特質を記録していければいいなあと思っています。 子どもたちに植物園には何があるか?と聞くと、植物の看板がある、という答えがよく返ってきます。今後植物が増えていったときに、こういった記録を元に解説文などができていってもおもしろいと考えています。 基本的に今回のプロジェクトでは、1回2時間半の単発ワークショップを複数回行なっている状況なので、参加者によっては1回限りの参加になります。戻ってきてもらいやすい工夫もしていきますが、1回参加してもらった人のイメージが、記録などによって次の参加者に引き継がれたり、新しい想像を引き出したりしていくことも期待できます。部分的には忘れてしまったり、書き換えられたりすることもありますが、そうやって形が変わっていくことも楽しんでいけるプロジェクトになればいいと思っています。一方では、子どもたちがせっかくつくったものを書き換えたりするのはどうなのか、という意見もつきまとうものです。がんばってつくったって、どうせ形が変わってしまうんだから…と思わせるのではなく、次に来たときにどんな風に植物が成長しているのか、植物園がどのように展開しているのか、と楽しみにしたり、自分の参加が前の人のつくったイメージの次にあり、その次の人のイメージにつながっていくものだ、というコンセプトを理解してもらうことも重要です。
地図・チケットづくりは5日間の間に何回か行われました。最終日にも地図とチケットをコピーし、受付を入り口前に設置しました。看板・地図チームが地図とチケットをつくり終えて受付づくりへと進み、チケットの渡し方、受付の仕方について議論が巻き起こりました。案1は、リバーウォーク北九州(会場となった商業施設)内を行き交う人々にチケットを配布して来てもらう、招待券で集客増プラン。案2はチケットは売るものだからチラシを配って受付でチケットを配布する(売ったことにする)券売所プラン。多くの人に来てもらいたいという思いと、チケットの売り方のリアリティーの比較なのでうまく折り合いがつかず、年上の参加者にも意見を聞きながら話し合いが続きました。中学生から多数決を取る案も出されましたが、多数決は嫌だとなったのが印象的でした。結局まとまらず、プレ・オープンとして両方のアイデアを試してみることにしました。 ワークショップが終わり、お昼を挟んで午後は飛び込み参加歓迎のワークショップです。午前中の参加者が引き続き残ってくれたり、過去の4日間に参加してくれた人もわざわざ足を運んでくれたりもしました。学芸員さんたちに現場を任せ、30分ほど買い出しに出て戻ると、午前中に受付の仕方を議論していた子どもたちに「本番が始まったよ!」と言われました。午前中のプレ・オープンに対して、グランド・オープンということになっていたのです。手書きのチラシもつくり、コピーしたものを配り、実際に来てくれた人に受付で地図を渡します。次には園内を案内するガイドツアーも始まり、気づけば撮影禁止のルールが、「ピンクの芽(のみ)撮影禁止」になっていました。
子どもたちが集客をはじめ、来たお客さんをガイドしている間、僕はバックヤードで引率のお母さんたちとぬいぐるみの植物をつくってみていました。このバックヤードは、スタッフになった子どもたちによって、スタッフオンリーの部屋になっていて、実はこれが結構便利でした。不特定多数を受け入れる飛び込み参加自由のワークショップを商業施設で行っていたため、午後の参加者に多いのは未就学児とその保護者でした。お絵かきコーナーを設けて、植物のドローイングなどができるようにしてありましたが、その周りで針を使う作業となると、ケガや針の紛失のリスクが高まります。排他的な雰囲気も出てしまうのが難点でしたが、まだ縫製作業を始めたばかりで体制も整っていない状況だったこともあり、実験的にスタッフオンリーのバックヤードで作業に集中できました。計画されたワークショップの裁縫作業がバックヤードで行われるのはなんだか皮肉ですが…笑
バックヤードのアイデアは、地図から出て来ました。プレ・オープンに向けて会場を整えている時に、バックヤードって書いてあるからつくらなきゃ、という具合でできた空間です。空間といっても椅子を並べて間仕切りし、写真のように張り紙をしただけです。レポ(3)にも書いたように、子どもたちが運営する側を演じ、スタッフを演じるように、この空間もバックヤードという役割(もしくは定義)を与えられ、演じているようです。植物園という演じられた空間があり、バックヤードがあり、受付があり、という様々な定義が与えられた状況があるから、そこを訪れる人に、スタッフ、ガイド、客という役が割り振られると考えられます。参加者をスタッフと呼ぶことは、ヒエラルキーや内輪感を生むデメリットも考えられますが、「植物園」という役を与えられた状況と、どのような役として関わるか、と捉えると、関わりの深さは違えど、スタッフも客も1つの役としては同等だと言えると思います。
子どもたちの集客のお力添えがあり、今回の5日間での来場人数が通算で500人を超えました。複数年に渡って事業を行っていくためには、動員数があるポイントにおいては重要になります。数を評価にすることにはジレンマがありますが、重要な要素であることもまた事実です。 受付・ガイド役を勤めていたチームの子どもたちが、500人目のお客さんに特別なバックヤードツアーを用意していました。僕は引き続きバックヤードで作業したので、そのツアーが企画されていたこと知ったのは、実際にバックヤードツアーがバックヤードにやって来た時でした。保護者Aさんと縫い終わった植物のぬいぐるみに、綿を詰めている時にツアーが突然やってきました。すると、ガイドの女の子が綿詰めをしている僕らを見て、「ここでは綿詰め体験ができまーす!」と言いました。一緒に作業していた保護者Aさんがすかさず乗ってくれて、急きょ「バックヤードで綿詰め体験」が始まりました。
事前から計画していた植物のぬいぐるみをつくるワークショップ(工房としてのバックヤード)の中で、即興で偶発的な綿詰め体験をするワークショップが行われました。計画という意味では、作業をする手を止めているので計画外の出来事と言えますが、保護者Aさんが柔軟に対応してくれたため、「綿詰め体験ができる」という即興性が生まれた点がユニークです。つくり方が決まっている制作ですが、つくり方や作品の解釈を表現するJAZZのセッションのようでもあると感じます。お互いの呼吸を読み合い、乗せ上手、乗せられ上手であることがワークショップにおいては重要です。

さて、このレポートこそ計画性もなく、即興的に書き進めてしまったために、メモ書きのような乱文で終わってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。ぬいかけの植物園けいかくしつは、タイトルに忠実にまた縫いかけ、つまり制作途中です。次回は2017年8月に行われる予定ですので、夏休みはぜひ北九州にぜひお越しくださいませ! 夏の北九州は初めてなので、まだ見ぬ北九州を知れることも楽しみにしています。
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