青と黄色はどんなルールなのか?
気がつけばもう2か月前のことになっていて、時間の早さにはいつも驚かされてばかりです。夏休みは季節柄ワークショップが多く、東京家政大学森のサロンでのワークショップを皮切りに、南は北九州から、北は会津と各地でワークショップに呼んでいただきました。企画していただいたみなさま、参加してくださったみなさま、支えてくださったスタッフのみなさまに感謝感謝です。
森のサロンでは、《しゅうかん素材会議》というワークショップを行いました。幼稚園と関わり初めて6年目になり、当初から疑問を持っていた、幼稚園・保育園で使われる材料のことをテーマにしたワークショップです。その疑問とはいたってシンプルで、なぜ造形遊び(一般的に保育業界ではそう呼ばれている)では、どこの園でも似たようなもの、特に紙コップや紙皿、廃材が主流の材料なのか、ということです。今回は廃材に焦点を当て、集めた廃材を子どもたちが何かをつくったり遊んだりするかもしれない素材をつくるコーナーをワークショップまでの2週間の間、森のサロン内に設けました。そこでは、こちらが指定した「青」「黄色」の紙類を持ち寄ってもらい、ハサミを使ってある程度の大きさに切りそろえてもらいます。基本は引率の大人に参加してもらうことが目的ですが、ハサミに興味を持った子どもたちも参加できるし、ハサミを使わないで遊んでもOKという設定にしました。
しかし、当日森のサロンに行ってみると、思っていたよりも材料の集まっていなかったので、急きょ絵の具コーナーを設置し、青と黄色の絵の具で、青と黄色の紙をつくることにしました。ワークショップ開始前に、早めに来てくれた参加者が数組いたので、「準備を手伝って〜」という感じで絵の具コーナーに入ってもらい、青と黄色の紙をつくってもらいました。
青と黄色の絵の具を紙に塗っていくと、青と黄色の紙の他に、青と黄色が混ざって緑色が出来上がります。『青と黄色の紙を持ち寄ってもらう』という条件に照らし合わせてみると、緑色の紙は除外されています。お家から材料を持ち寄ってもらう際に、青と黄色ではない紙はすでに省かれていたと思います。でもその時にもしかしたら、青だか緑だか判断が難しい色ってあったかもしれませんし、一見青に見えるけど、細かい模様の中に緑色が含まれている図柄のものもあったと思います。「これはアリか?ナシか?」と頭を悩ませた方も少なくないのではないかな。そうやって日常にあるものと普段はしない対話が生まれるところが、ワークショップであると思っていて、青と黄色の紙を使ってカラフルなお土産物をつくって変えることが目的とは限らないわけです。
緑色の絵の具もそうで、子どもたちは別に僕の手伝いであること以上に、青と黄色に関心があるとは限らない。青と黄色の絵の具で遊んでいたら、いつのまにか混ざっちゃって、あれよあれよと色が変わっていく!そんな色との対話が生み出す想像こそが、「青」と「黄色」というルールを設定することで保証される自由感なんだと思います。
(ただ、その自由感こそ、奪われていることが多い。出されている絵の具を、混ぜて使ってはいけない!という幼稚園・保育園も少なくないのが現状のようです。混ぜちゃいけない理由はなんなのか、聞いてみたい。)
(ただ、その自由感こそ、奪われていることが多い。出されている絵の具を、混ぜて使ってはいけない!という幼稚園・保育園も少なくないのが現状のようです。混ぜちゃいけない理由はなんなのか、聞いてみたい。)
青と黄色があると緑ができる。これも青と黄色だけに設定されている意味になるんじゃないでしょうか。しゅうかん素材会議は、普段の生活の中から、子どもたちが遊んだりつくったりする素材について考えたり、素材を準備する習慣をつけることが狙いのワークショップです。青という指定がどこからどこまで許されているのかを考えたりすることの中に、青と黄色の絵の具を混ぜてもいいのかどうか、という悩みも生まれる気がします。でも青と黄色を混ぜると緑ができる。これは青と黄色じゃないとできないことでもある。
そこで急きょ(たいていのことが「急きょ」行われている…)青と黄色の紙コーナーに並んで、緑色コーナーをつくってもらいました。森のサロンの倉庫からも、いくつか緑色の色画用紙などを出してもらい、3つの色で遊べるようにしました。ちょうどたまたま緑コーナーを設置した場所の近くに、ワークショップに参加できずにいた親子がいて、コーナーが近づいてきたおかげで最後はお父さんと一緒に立体的な造形物をつくって遊んで帰ってくれました。手が届くように設置してくれたスタッフさんの配慮がさすがです!
色が混じって他の色に変わっていくことを保証することは、緊張や不慣れで場に馴染めずにいる人たちの気持ちも保証することにも繋がるのかもしれません。課題に答えなきゃいけない試験でもあるまいし、技工士養成講座でもないので、出来上がるもののクオリティーに我々企画者側をはじめ、周りの大人が満足する必要もないんです。子どもたちが楽しくて、大人も楽しかったらなおいいけれど、設定された環境の中で、どんな些細なことがきっかけで子どもたちの想像が始まるかは、私たち大人には決められないことです。そのきっかけを見逃さないように注意深く対話をして、そのきっかけから遊びが生まれるようにつくること。その多様さに応えることが難しい。
難しいから、最初から全部に応えられるように準備しておくなんて多分できっこない。だから途中で編集して編集して、形を変えていくんです。そんなアメーバみたいな感じのワークショップを目指しているのかな。
難しいから、最初から全部に応えられるように準備しておくなんて多分できっこない。だから途中で編集して編集して、形を変えていくんです。そんなアメーバみたいな感じのワークショップを目指しているのかな。