北九州市立美術館WSレポ(2)
ワークショップにおいて、僕や美術館スタッフが準備したものや環境は全て、参加者にとっての制限になります。選ばれた材料があるということは、作家である僕がイメージした作品像の制作を体験することができ、それ以外のものを使った参加者独自の表現ができないことでもあります。ワークショップにおける表現の自由度以上に、会場そのものが持つ使用条件や公共のルールを守ることが当然求められることになります。このようなジレンマにここ数年悩まされていたのですが、最近は少し自分の中の落とし所のようなものを見つけられてきている気がしています。
中島佑太×北九州市立美術館として実施されたワークショップ《ぬいかけの植物園けいかくしつ》は、10年(くらい)かけて植物園を作ることを目標にスタートしました。参加者と植物のぬいぐるみを実際の植物が育つようにつくり、それらを骨格にした植物園をつくるイメージです。ぬいぐるみ製の植物は実際に成長するわけではないので、育っているように作りなおし、もしくは作り続けていくことを意味しています。
2016年度は2月25,26日、3月18~20日の計5日間に渡り開催され、植物園を〇〇かける、植物園をぬいかけるという2つのセクションに分けてワークショップが行われました。4.8m×4.8mほどの大きさを、ビニールシートで区切れるように紙管の骨組みを立て、その中を中心にワークショップを行いました。会場となったリバーウォーク北九州の周辺に生えている植物をスケッチしたりして、ビニールシートに植物のイメージをドローイングし、それを元にして植物のぬいぐるみをつくりました。当初は材料として各参加者からいらなくなった服などを持ち寄ってもらい、準備段階から少しでも想像を掻き立てられるように考えていましたが、植物をつくる際に色がバラバラになってしまい、できあがったものがまるで植物には見えなくなってしまうことに気づき、新しく布を追加して使用することにするなど、試行錯誤しながら進めました。
前述した通りこのワークショップのタイトルは、《ぬいかけの植物園けいかくしつ》です。植物のぬいぐるみをつくり、裁縫や造形を学ぶことを目的にしたものではなく、協働により縫うことでできあがっていくだろう植物を集めた植物園を計画してみることにテーマがあります。なので重要なのは、どんな植物をつくるか、ということだけではなく、植物園とはどんな場所?ということです。 植物園には植物がある!どんな植物?とあーだこーだ植物について話し合い、植物「園」ってどんなところ?と続けます。チケット、受付(チケットカウンター)、誘導サイン、池、トイレ、時計、ベンチ、地図…と既存の植物園を思い出しながら、今ここに足りない植物以外のものもつくっていきました。
特に印象的だったのは子どもたちによる地図づくりです。それぞれの参加者がつくり始めた受付やトイレの位置などを、地図づくりチームが情報をまとめ、植物園来場者に手渡しするための地図をつくっていきました。会場上階に美術館のオフィスがあるのでそこでコピーをし、実際に配布したりもしました。
ワークショップが合意形成のエキササイズであるとはいえ、ライブな現場ではいちいち手を止めて参加者全員の合意を得ることは難しくなってきます。特に子どもたちは一度制作に夢中になると、それぞれの思いが強くなっていきます。絵を描くのが好きで美術館のワークショップに参加している子どもたちはビニールシートへのドローイングをし続けたり、内容に関係なく当選したからきた子どもたちは植物への興味が薄かったりと、それぞれの関心や興味はバラバラであることは珍しくありません。ただ、公募によって複数の参加者(それも動員数が重要視されたりする)を集める事業である以上、タイトルなどの概要と設計されたプログラムが企画を進めていく上で求められていきます。性質上ワークショップに興味のない参加者が来ることもあり、たとえそうであっても設定されたプログラムに参加しなければいけないことがあります。興味のない参加者にとって、新しい世界観との出会いになったり、多様な経験になったりするメリットも考えられます。一方では図工や美術の授業のように、無理やりやらされることで嫌いや苦手意識に繋がったりしてしまいます。別にそれをやらなくてもいいのに、なぜか不自由に感じてしまいます。
子どもたちが作成した地図は、植物園ワークショップを企画した僕の指示によるものではありませんでした。植物園にはこういうものがある!という話し合いの中に出てきたアイデアの一つであり、参加者の中の数人が自主的につくったものです。チケットやトイレといった制作物もそれぞれの参加者がいくつか出てきたアイデアを元に、自分のやりたいこと、つくりたいものを見つけてつくっていきました。合意形成という意味でいえば、タイトルにある植物園全体の「計画」としては成り立っていなかったのですが、この地図によって全体像が浮かび上がり、参加者や来場者(実際に参加者以外も招待された)とそのイメージが共有されることになりました。また、地図には実際にない部分も書かれていて、そこでその地図に合わせて、植物園にイメージを追加されることもありました。子どもたちの想像と、実際に制作されている現実をつなぎ合わせたり、内輪(参加者・関係者)に生まれたイメージを、参加者同士や外部(来場者)と共有するツールとして機能した点がユニークでした。
今回のワークショップにおける最大の制限は「植物園でなくてはいけないこと」だったと思います。今回の5日間は午前中を公募で定員20名、午後を飛び込み可で参加者人数稼ぎとしてあてていました。飛び込みの来場者には午前中のワークショップの様子や流れを説明することが難しく、じっくりと話し合い時間をかけて制作した午前中とはどうしても当事者意識に違いが出ます。午前中に参加した子どもが、制作している様子を見て 「これじゃあ植物園じゃなくて自由園じゃん…。」 と言っていました。当事者意識の差が、午後の飛び込み参加の親子を見て好き勝手に過ごしているように見えたようです。自由な表現をしてもらいたいけれど、自由園だと植物園ではなくなってしまうかもしれない、では植物園であり続けながら自由に表現するにはどうしたらいいのか。さらにそれを内輪な場に終始せず、開き続けることはどうやったらできるのかが次の課題となるでしょう。植物園の地図によって起こった合意形成と情報共有はそのヒントになる気がしました。
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