北九州市立美術館WSレポ(3)
5日目は平成28年度の最終日のワークショップでした。これまでの4日間と大きく違うのは、今まではビニールシートがかけられた四角い空間でしたが、前の日の参加者が制作した植物のぬいぐるみが設置されていた点でした。植物のぬいぐるみと言ってもとても小さく、それだけ見ても”植物園”と連想するほどのものでもないのですが。 4日目のワークショップが、ほぼやることが決まっている制作に終始してしまったように感じ、自分のワークショップのスタイルではないように感じてしまった部分が反省として残りました。そこで5日目は、「植物園とは何か?」という話し合いを最初に持ち、出て来たアイデアごとにグループをつくるところから始めました。出来上がったグループは「地図・看板」チーム、「トイレ」チーム、「時計」チーム、「ベンチ」チーム、「植物のぬいぐるみ」チームでした。「地図・看板」チームの活動についてはレポ(1)に詳しく書いてありますが、地図・看板チームが作成した地図と看板、ビニールカーテンに描かれた植物のドローイングに加えて、植物のぬいぐるみがあり、植物園のイメージがより鮮明に視覚化されていたことにより、この日のワークショップは植物づくりワークショップではなく「植物園」計画ワークショップとして展開できたように感じました。
「はっぱでてをきる」「きけんなしょくぶつにさわらない(どく)」と書かれた看板は、看板チームによって制作されました。シートに描かれた植物のドローイングの中には、その植物がどういう特性を持っているのか、制作者である子どもが独自で考案したものがいくつかありました。あくまでドローイングを描きながら考えられた独自なアイデアなので、その全ての物語を記録できているわけではなく、その子が教えてくれたり、たまたま聞こえて来たものがあるだけです。それらの独自な物語もできる範囲で紹介しながら、ワークショップを進めていきましたが、その中には葉っぱで手を切るようなものや、毒性があって触ってはいけないものはなかったように記憶しています。つまりこの注意書きにある植物の特性(物語)は、看板チームによって独自につくられた物語です。「おとなはあたまにちゅうい」や「飲食禁止」などがいつの間にか貼られていました。頭上注意に関しては、いくつか支柱にヒモがかけられていて、それをくぐる大人の姿を見ていたのかもしれません。飲食禁止やカメラ禁止(撮影禁止)は博物館のイメージで書かれたものでしょう。独自な物語とは言っても、既存の博物館や公共スペースにあるもののイメージですが、大人の指示でつくったものではなく、子どもたちの想像から生まれた物語です。植物園の来場者ではなく、つくる側、運営する側になりきり、その役を演じ、植物園という物語を描き進めていったところにできたものです。
そのような役割を演じるようになる前の、ワークショップの序盤によく見られるのは、何をしたらいいか思い浮かばない、やることにいちいち許可を取る参加者です。ワークショップへの参加は親御さんが選ぶことが多いため、何をしたらいいか思い浮かばず、指示を待ち、大人や講師の許可がないと作業を進められない参加者は少なくありません。だんだんと緊張をほぐし、想像を膨らませ、やりたいことを引き出していくと自発的な創作が増えていき、もともと知り合いではなかった参加者同士の間でも協働が生まれていきます。特にそれは長時間に渡り参加してくれた参加者や、複数回ワークショップに参加しているリピーター参加者に多く見られます。参加時間や回数が増え、他の参加者との関係が深まっていくことにより、初めは企画者であるアーティストと美術館のみにあった主体性を、参加者が持っていきます。やっていいこと(自由さ)とやってはいけないこと(制限)の境界線やその判断が、主体性を持った参加者側に委ねられていきます。そこにワークショップ・イン・ワークショップが生まれます。
ワークショップ・イン・ワークショップと参加者の主体性
ワークショップにおける課題設定や環境が、参加者の表現の自由さの制限になるとレポ(2)で書きました。しかし、どこまでも自由でありたければワークショップには来なければいいとも言えてしまいます。ワークショップに起こる、ワークショップならではの自由さ(もしくはその体験)とは一体何か、と考えてみます。今回のワークショップでは、植物園であることの制限がありますが、どのような植物園であるかは参加者に委ねられています。これは僕と参加者との間に起こる、自由さと制限の交換というある種の契約のようにも捉えられます。できるだけ自由に表現してもらいたいとは言え、なんでも好き勝手にやってもいい訳ではないのが世の常です。お互いのやりたいことを主張し合い、相談しながら自由につくれるポイントを探っていければいい、全ては交渉次第です。大枠としての計画性を持ったワークショップ=工房があり、その工房のコンセプトの中やその周辺で、双方向的な合意形成を目指した遊びとしての即興性のワークショップ=協働を起こしていくというイメージです。このワークショップの2つの解釈を行き来しながら、自由さと制限を交換するように、お互いのやりたいことを交渉しながら進めていくことが、今後突き詰めてみたい活動のテーマになるんじゃないかと感じています。
今後、植物の解説だったり、即興で生まれた様々なワークショップのような独自な物語をどのように記録するかが課題になっていきます。あまりまとまらないレポートですが、レポートその4でいくつかその記録を試みて、今回のレポートを一度綴じたいと思います。